目次
- TL;DR
- この記事が役立つ状況
- このノウハウをAIで実行するプロンプト
- 目標設定にコーチングが必要な理由
- SMARTだけでは不十分な理由
- GROWモデルを使った目標設定の実践
- G(Goal)—— 目標を明確にする
- R(Reality)—— 現状を正確に把握する
- O(Options)—— 選択肢を広げる
- W(Will)—— 行動を決める
- 1on1での目標設定コーチング対話例
- 目標設定で避けるべき5つのNG行動
- NG1: 最初に数字を伝えてしまう
- NG2: 部下の答えを否定する
- NG3: 誘導質問をする
- NG4: 目標設定を一度で完結させようとする
- NG5: 設定後に放置する
- 目標達成を支えるフォローアップの仕組み
- 週次の1on1で進捗を対話する
- 月次で目標そのものを振り返る
- 成功体験を可視化する
- まとめ
- 参考文献
目標設定にコーチングを活かす|部下が自走する目標の作り方
コーチングを活かした目標設定の方法を解説。SMARTだけでは不十分な理由、GROWモデルを使った1on1での目標設定、部下が自走する目標の作り方を紹介します。
渡邊悠介
TL;DR
- コーチング型目標設定は部下の当事者意識を引き出し、自走する状態を作る
- SMARTは形式を整えるが動機と意味を扱わないため、対話による掘り下げが不可欠
- GROWモデルのGoal→Reality→Options→Willで部下自身に考えさせる設計をする
この記事が役立つ状況
- 対象者: 営業マネージャー / チームリーダー / 部下に目標を割り振る立場の管理職
- 直面している課題: トップダウンで数字を割り振っても部下が自分ごと化せず、達成に向けた主体的な行動が生まれない
- 前提条件: 部下と1on1で対話する時間を確保できること、SMARTだけで目標を固める前に動機を掘り下げるプロセスを設計する意志があること
このノウハウをAIで実行するプロンプト
以下をコピーしてLLMに貼り付け、[ ] 内を自社の情報に書き換えてください。
あなたは営業マネージャー向けのコーチングアドバイザーです。
以下の前提で、部下[部下の名前または役割]に対する目標設定1on1の進行案を作成してください。
- 期間: [今期/半年/通期など]
- 組織から降りてきた数字目標: [具体的な数値]
- 部下の現状: [前期実績・強み・課題]
- 想定される葛藤: [本人が感じていそうな抵抗や不安]
GROWモデル(Goal→Reality→Options→Will)の4ステップに沿って、各ステップで使う問いかけを3つずつ提示してください。最初から数字を出さず「どうありたいか」から始め、SMART形式への落とし込みは最後のWillステップで行ってください。
目標設定にコーチングが必要な理由
コーチングを活かした目標設定は、部下が目標を「自分ごと」として捉え、自ら考えて動く状態を作る。 トップダウンで数字を割り振るだけでは、部下の内発的な動機は生まれない。目標に対する納得感——これが、達成に向かう行動の質と持続力を決定的に左右する。
多くの営業組織で、目標設定は「期初に数字を伝える儀式」になっている。経営から降りてきた売上目標をチーム人数で割り、個人の数値目標として配布する。部下は「わかった」と言いるが、心の中では「また上から降ってきた数字か」と感じている。この状態で目標を達成しようと主体的に動く人は稀だ。
コーチングとは、問いかけを通じて相手自身の中にある答えを引き出すコミュニケーション手法だ。目標設定にこのアプローチを取り入れると、「この目標は自分で考えて決めたものだ」という当事者意識が生まれる。人は自分で決めたことには責任を持つ。押しつけられた目標ではなく、自分で選んだ挑戦に対してこそ、本気で向き合えるのだ。
目標設定における上司の役割は、数字を伝えて終わりではない。対話を通じて部下の意志を引き出し、組織の方向性と個人の動機をつなぐ——これがコーチング型の目標設定だ。
SMARTだけでは不十分な理由
目標設定のフレームワークとして最も知られているのがSMARTだ。Specific(具体的)、Measurable(測定可能)、Achievable(達成可能)、Relevant(関連性がある)、Time-bound(期限がある)。この5つの基準を満たせば「良い目標」になる、と多くのビジネス書が説いている。
しかし、SMARTには決定的な限界がある。SMARTは目標の「形式」を整えるフレームワークであり、目標に対する「意味」や「動機」を扱わないのだ。
「新規顧客を月5件獲得する」——これはSMARTの基準を完全に満たしている。具体的で、測定でき、達成可能で、事業に関連し、期限もある。しかし、この目標を渡された部下が「なぜ5件なのか」「なぜ新規なのか」「自分にとってこの目標を達成する意味は何か」を理解していなければ、それは単なる数字の羅列だ。
SMARTが扱わない領域は大きく3つある。
1. 動機づけ(Why)。 なぜこの目標を達成したいのか。達成した先に何があるのか。SMARTには「なぜ」を問う要素がない。
2. 当事者意識。 その目標は誰が設定したのか。上司が決めた目標をSMART形式に整えても、「自分の目標」にはならない。
3. プロセスの柔軟性。 目標達成までの道筋が一本道である必要はない。しかし、SMART形式で固定してしまうと、状況変化への適応が遅れることがある。
SMARTは「悪い」フレームワークではない。目標を言語化し、曖昧さを排除するツールとしては優れている。しかし、SMARTで形式を整える「前」に、コーチング的な対話で動機と意味を掘り下げるプロセスが不可欠だ。形式と動機の両方が揃ってはじめて、目標は人を動かす力を持つ。
GROWモデルを使った目標設定の実践
GROWモデルは、コーチングにおける最も基本的なフレームワークだ。Goal(目標)→ Reality(現状)→ Options(選択肢)→ Will(意志・行動計画)の4ステップで構成され、質問を通じて相手自身に考えさせるプロセスを設計する。目標設定の場面では、このGROWモデルが強力なツールになる。
G(Goal)—— 目標を明確にする
最初のステップは、部下自身が「どうなりたいか」を言語化することだ。ここでの目標は、組織から与えられた数字ではなく、本人の中にある意志だ。
問いかけ例:
- 「今期、営業として一番実現したいことは何だか?」
- 「半年後、どんな状態になっていたら充実した期だったと言えるか?」
- 「キャリアの視点で、今期はどんな成長をしたいだか?」
ここで重要なのは、最初から数字を出さないことだ。「売上いくら」ではなく、「どうありたいか」から始める。数字は後から自然についてくる。
R(Reality)—— 現状を正確に把握する
次に、現状を客観的に整理する。理想と現実のギャップを正確に認識することが、行動計画の質を決める。
問いかけ例:
- 「今、その理想に対してどのくらいの地点にいると感じるか?」
- 「目標達成を妨げている一番大きな障害は何だか?」
- 「前期の経験から、自分の強みとして活かせることは何だか?」
マネージャーが「あなたはここが弱い」と指摘するのではなく、部下自身が現状を言語化するプロセスが重要だ。自分で口にした課題は、人から指摘された課題よりもはるかに受け入れやすいものだ。
O(Options)—— 選択肢を広げる
ギャップが明確になったら、そのギャップを埋めるための方法を一緒に探る。マネージャーが正解を与えるのではなく、部下の発想を広げる問いかけをする。
問いかけ例:
- 「目標を達成するために、どんなアプローチが考えられるか?」
- 「もし何の制約もなかったら、どんな方法を試したいだか?」
- 「過去にうまくいった経験を応用するなら、何ができるか?」
このステップでは、質より量を重視する。実現可能性の判断は後回しにして、まずは選択肢を出し切ることが大切だ。プレイングマネージャーのコーチング型マネジメントでも触れているが、マネージャーが「自分だったらこうする」と答えを渡してしまうと、部下の思考が止まる。
W(Will)—— 行動を決める
最後に、具体的な行動計画と実行の意志を確認する。ここで初めて、SMART的な具体性を持たせる。
問いかけ例:
- 「挙げた選択肢の中で、最初に取り組むのはどれだか?」
- 「いつまでに、何をするか?」
- 「達成度はどうやって測るか?」
- 「障害が出たとき、どう対処するか?」
GROWモデルの最大の利点は、部下自身が「考え、選び、決める」プロセスを踏むことだ。同じ目標数値でも、自分で導き出した目標と上から渡された目標では、取り組みの質がまったく異なる。
1on1での目標設定コーチング対話例
GROWモデルを実際の1on1でどう使うか、具体的な対話例を示する。営業チームのマネージャー(M)とメンバー(A)の目標設定面談の一場面だ。
M: 「今期の目標を一緒に考えたいんだが、まず聞かせてください。今期、Aさんが営業として一番チャレンジしたいことは何だか?」
A: 「そうだね……。前期は既存のお客さまの対応が中心だったので、今期は新規開拓に本格的に取り組みたいだ。」
M: 「新規開拓に挑戦したいんだね。それはなぜだか?」
A: 「既存対応だけだと、自分のスキルの幅が広がらないなと感じていて。新規の提案から受注までを一人でやり切る経験がしたいんだ。」
M: 「なるほど。成長のために新規開拓を選んでいるわけだね。今、新規開拓に関しては、どのくらいの経験があるか?」
A: 「正直あまりなくて……。先輩に同行したことは何度かあるんだが、自分主導でやったのは2件くらいだ。」
M: 「その2件の経験で、手応えを感じた部分はどこだった?」
A: 「ヒアリングのところだかね。お客さまの課題を聞き出すのは得意だと思いる。ただ、提案書をまとめるところで時間がかかってしまいた。」
M: 「ヒアリングが強みで、提案書の作成がボトルネック。その認識で合っているか?」
A: 「はい、そうだ。」
M: 「では、新規開拓を進めるために、どんな方法が考えられるか?自由に挙げてみてください。」
A: 「まず、提案書のテンプレートを作っておくことだかね。あと、ターゲットリストを先に整理して計画的にアプローチする。それから、提案書を出す前に先輩にレビューしてもらう、とか。」
M: 「3つ出たね。他にはないか?制約なしで考えるとどうだか?」
A: 「うーん、あとは成功事例のある先輩の商談に改めて同行させてもらうとか。新規開拓のやり方を改めて体系的に学ぶ時間を取るとか。」
M: 「良いだね。では、これらの中で最初に着手するのはどれだか?」
A: 「ターゲットリストの整理と提案書テンプレートの作成を、今月中にやる。」
M: 「数字としては、新規案件をどのくらい目指するか?」
A: 「月3件のアポイント、四半期で2件の受注を目指したいだ。」
M: 「わかった。私にサポートできることはあるか?」
A: 「提案書のレビューと、行き詰まったときに相談する時間をもらえると助かる。」
M: 「もちろんだ。1on1の中で進捗を一緒に振り返りましょう。」
この対話のポイントは、マネージャーが一度も「あなたの目標は月3件のアポと四半期2件の受注だ」と言っていないことだ。問いかけを重ねた結果、メンバー自身がその数字に辿り着いている。同じ数字でも、自分で導き出した目標には圧倒的な当事者意識が伴いる。
目標設定で避けるべき5つのNG行動
コーチング型の目標設定を台無しにしてしまう、よくある失敗パターンがある。
NG1: 最初に数字を伝えてしまう
「今期の目標は売上3,000万円だ。どう達成するか考えてください」。こう切り出した瞬間、部下の思考は「3,000万円をどう分解するか」に固定される。自分がどうなりたいか、何に挑戦したいかという内発的な動機を引き出す余地がなくなるのだ。数字を伝えるのは対話の後半にしてください。
NG2: 部下の答えを否定する
「それは難しいんじゃないか」「もっと現実的に考えて」。部下がせっかく自分の考えを口にしたのに、即座に否定されれば次から本音を言わなくなる。GROWモデルのOptions(選択肢)のステップでは、まず全ての案を受け止めることが鉄則だ。
NG3: 誘導質問をする
「新規開拓を頑張るべきだと思わない?」。これは質問の形をした指示だ。部下は「はい」と答えるしかない。コーチングの問いかけは、答えが開かれている必要がある。「今期、どんな挑戦をしたいだか?」と聞くことで、本人の意志が出てくる。
NG4: 目標設定を一度で完結させようとする
1回の面談で目標を完璧に仕上げようとすると、対話が駆け足になり、部下は十分に考える時間を持てない。初回の対話で方向性を確認し、数日後に具体化するなど、2回に分けることも有効だ。
NG5: 設定後に放置する
目標を設定して満足し、次の期末面談まで一切触れない。これが最も多い失敗だ。目標は「設定すること」がゴールではなく、「達成に向けて行動し続けること」が目的だ。設定後のフォローアップの仕組みがなければ、どれほど良い目標も紙の上の文字に終わる。
目標達成を支えるフォローアップの仕組み
目標を設定した後こそが、コーチングの真価が問われる場面だ。設定時にどれだけ良い対話ができても、その後のフォローがなければ目標は形骸化する。
週次の1on1で進捗を対話する
目標設定後のフォローアップの基盤は、1on1ミーティングだ。ただし、ここでの「進捗確認」は数字の報告ではない。行動の振り返りと次の一歩を対話で導き出すプロセスだ。
問いかけ例:
- 「今週、目標に向けて一番手応えがあったことは何だか?」
- 「想定通りにいかなかったことはあるか?何が障害になったか?」
- 「来週、特に集中したいことは何だか?」
数字が遅れているときほど、コーチングの姿勢が重要になる。「なぜ達成できていないのか」と問い詰めるのではなく、「何が障害になっているのか」「どうすればその障害を取り除けるか」を一緒に考える。この姿勢が、困難な局面でも部下が前を向き続ける力を支える。
月次で目標そのものを振り返る
月に1回は、目標の内容そのものを振り返る時間を設ける。ビジネス環境は常に変化している。期初に設定した目標が、3ヶ月後も最適とは限らない。
- 環境変化を踏まえて、目標の方向性は合っているか
- 達成基準は適切か(高すぎる・低すぎる)
- 新たに見えてきた課題や機会はないか
目標を柔軟に修正できることも、コーチング型目標管理の強みだ。「一度決めた目標は変えてはいけない」という硬直した運用は、変化の激しい営業現場にはそぐいない。
成功体験を可視化する
目標に向けた小さな前進を言語化し、承認することが、行動の持続力を高める。「先週設定したアクションプランを実行できた」「新規の初回訪問で好感触を得た」——こうした小さな成功体験を1on1の場で拾い上げ、フィードバックする。
人は、自分の成長を実感できるときに最もモチベーションが高まる。目標達成までの長い道のりの中で、マイルストーンごとに達成感を味わえる仕組みを意図的に作ることが、フォローアップの核心だ。
まとめ
目標設定にコーチングを取り入れる本質は、目標の「所有者」を変えることにある。上司が決めた目標を渡すのではなく、対話を通じて部下自身が目標を設計するプロセスを支援する。この転換によって、目標は「やらされるもの」から「自分で選んだ挑戦」に変わる。
SMARTで形式を整える前に、GROWモデルで動機と意味を掘り下げる。設定後は1on1でフォローアップし続ける。この一連のプロセスが、部下の自走力を育て、チーム全体の目標達成率を底上げする。
次の目標設定面談で、数字を伝える前にまず「今期、一番挑戦したいことは何だか?」と聞いてみてください。その一つの問いかけが、部下の目標との向き合い方を根本から変えるはずだ。
参考文献
- John Whitmore, “Coaching for Performance: The Principles and Practice of Coaching and Leadership”, Nicholas Brealey Publishing, 5th Edition, 2017
- George T. Doran, “There’s a S.M.A.R.T. Way to Write Management’s Goals and Objectives”, Management Review, Vol. 70, Issue 11, 1981
- 鈴木義幸『コーチングが人を活かす』ディスカヴァー・トゥエンティワン, 2020
- International Coaching Federation (ICF), “ICF Global Coaching Study”
よくある質問
Q目標設定にコーチングを使うメリットは何ですか?
QSMART目標だけではなぜ不十分なのですか?
QGROWモデルとは何ですか?
Qコーチング型の目標設定に資格は必要ですか?
Q目標設定のコーチングはどのくらいの頻度で行うべきですか?
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渡邊悠介
代表取締役 / 株式会社Hibito
リクルート、MagicMomentを経て現職。幅広い営業経験と、営業推進、新規事業開発、採用の観点から企業の急成長を営業支援で支える。営業組織コーチング・個人コーチングを通じて、営業パーソンの主体性と成果を最大化する。「全ての人が自分の未来を自分の手で描ける社会」の実現をミッションに掲げる。
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